朝暮三文『嘘猫』
若い「僕」は、ある日、猫につけ込まれ・・・?。
駆け出しコピーライターの「僕」。
世渡り上手な野良猫ミヤ。
「僕」は、大学を卒業して単身東京に出てきた。安い初任給でやっと借りた六畳一間のボロアパート。テレビもない、冷蔵庫もない、仕事をするための机すらない。なんとかカツカツの生活をしていたが、そんなある日。
雨が降る中、窓の外でしきりに鳴く猫がいた。
つい情にほだされて、部屋に入れてしまったのが運の尽き。雨の一晩だけのつもりが、気が付いたときにはもう出産していた。万年床の布団の上で、もぞもぞと動く5匹の子猫。「僕」はびっくり仰天。
が、たちまち負けを認めざるを得なかった。「僕」は、生まれたての子猫もろとも、猫を追い出せるような性格ではなかった。
しかし、ここはペット禁。猫を飼っていることがバレたら追い出されてしまう。それでも、子猫たちが巣立つまでだぞと、自分に言い訳をしながら、せっせと猫グッズをそろえるアサグレ青年。昔犬を飼っていただけあって、生き物への接し方は、若い男性にしては、ずいぶんと心細かいものだった。
まずは、自分が追い出されないための用心。もと野良猫のミヤ、大人しく部屋で寝てばかりとは限らない。
仕事に出ている間に外へ出せと鳴き騒がれては、こちらが先に部屋を追い出される羽目にもなりかねない。そのために猫の出入り用のドアを作ろう。
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薄い財布と相談しながら、窓に猫ドアを工作する。
そうそう。ミヤに首輪が必要だ。外へ自由に出かけられるとなると、保健所に野良猫としてつかまる危険がある。目が開かない子猫五匹だけをこちらに残して、母猫が消えてしまうのは、もっとも大変な事態になるではないか。
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こうして、アサグレ青年と母子合わせて6匹の猫達の生活が始まった。さらに病気の子猫が増えたりもし・・・
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全編、猫まみれな小説です。
主人公のアサグレ君は、大学を出たての、もっさりとした青年ですが、猫達によく尽くし、またよく観察もしていて、好感度高いのです。
そして、猫達。実に魅力的に描かれています。
母猫のミヤは、頭が切れて、人を見抜く目も確かで、舌を巻くほど要領よく、人間たちの間を立ち回っていきます。母猫としての子育て技術もたいしたものです。子猫たちをどう育て、いつ離れていくべきか、知り尽くしている。猫達の子育てを見ていると、子離れできない人間の母親が馬鹿に見えて仕方なくなってしまいますね。
そして、子猫たち。
アサグレ君と暮らしますが、一匹、また一匹と、いなくなっていきます。里子にもらわれていった子。野良として自立していった子。事故で亡くなってしまった子も。
その間に、アサグレ君もコピーライターとして次第に一人前に成長していき。
最後に残ったチロと、もうすこし広い、今度はちゃんと風呂もついているアパートに引っ越すのですが、・・・
その、アサグレ君の成長ぶりと子猫たちが減っていく線が、ぴったり重なっていて、最後にどうなるか、ある意味で予想できるのですが、でもかなり切なくもあり。
とても白く読みました。おすすめの一冊です。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『嘘猫』
- 著:朝暮三文(あさぐれ みつふみ)
- 出版社:光文社 光文社文庫
- 発行:2004年
- ISBN:4334737463 9784334737467
- 206ページ
- 登場ニャン物:ミヤ、チロ、茶々、三番、カケフ、五番、名前を付けられなかった仔猫1猫 チロから五番までの5猫はミヤの子
- 登場動物:
【推薦:早香様】
アサグレ青年が東京で働き始めた時から3年間程の間、一緒に過ごした猫のお話。
ミヤに目を付けられたアサグレ青年はミヤの子供5猫の子育てをするはめになります。
そしてアサグレ青年の夢が現実になる間に病気・事故・自活などで猫が減っていきます。
最後の猫が戻ってこなくなった時に、アサグレ青年は猫の相手をしなくなっていたことに気付き、現実の世界で一人前にならなくてはならないのだと思います。
猫さんとこんな風に過ごせたらいいのにと羨ましくなる話でした。
でも、私はずっと猫さんと一緒がいいですけど。
(2005.3.12)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。