稲垣進一/悳俊彦『江戸猫 浮世絵猫づくし』

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

 

『猫の浮世絵だけを集めた日本初の作品集』。

・・・と聞けば、猫好きさんも、浮世絵好きさんも、心さわぐのではないでしょうか。

猫の一瞬の動きを見事にとらえた一枚。
今ならカメラがありますから、どんな一瞬でも捕まえられますが、当時はどこまでも人の眼で、猫たちのすばやい動きを分析する必要がありました。
にもかかわらず、下手な写真より、よっぽど躍動感があります。
中でも、(言うまでもありませんが)歌川国芳の作品がみごとです。
天才画家としての眼だけでなく、猫への愛情に裏付けされているからでしょう。

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

『江戸猫 浮世絵猫づくし』帯がまた美しい

猫が着物を着て、人間のようにふるまっている絵も多いです。
飲んだり踊ったりなら猫も得意そうですが、重そうな天秤棒を担いで商売に励む猫たちには、つい笑ってしまいます。
だって額に汗水たらして真面目に働く猫なんて想像できない(笑)。

もちろん、猫又・化け猫の類の、不気味な猫も出てきます。
しかし私にはこの猫たちの顔、全然怖くないというか、むしろその真剣なまなざしが、野生美ともいえる頼もしさに見えます。

猫たちが一番生き生きと描かれているのは、「美人+猫」の構図の絵たちだと思いました。
猫たちは、襟元にもぐりこんだり、裾にじゃれたり、甘えたり、ただ横にいたり。
着物が洋服に変わっただけで、今の飼い猫たちと全く同じですね。
浮世絵の美人たちはデフォルメが強くて、現代人の私の目には、正直、あまり美しいというか魅力的と感じられませんが(苦笑)、その分、猫たちは写実的で、実に伸びやかに息づいています。

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

『江戸猫 浮世絵猫づくし』裏表紙+帯

取り上げられている作家は;
歌川国芳
歌川広重
歌川芳藤
歌川国幾
歌川国貞
歌川国政
歌川藤よし
歌川国利
歌川国秀
歌川国艶
鈴木春信
磯田湖龍斎
河鍋暁斎
小林清親
月岡芳年

お得感いっぱいの一冊でした。おすすめ。
(2012.1.15.)

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『江戸猫 浮世絵猫づくし』

  • 著:稲垣進一(いながき しんいち)、悳俊彦(いさお としひこ)
  • 出版社:東京書籍
  • 発行:2010年
  • NDC:721(日本画)浮世絵
  • ISBN:9784487804283
  • 139ページ
  • カラー
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

はじめに

第一章 日々猫 猫は毎日生きている
一、猫に蝶 / 二、竹林の猫に雀 / 三、其のまま地口猫飼好五十三疋 / 他

第二章 いたずら猫 猫があそぶ、猫であそぶ
一一、金魚づくし百ものがたり / 一二、道外十二支甲子の鼠 / 一三、心学稚絵得〔ネズミと猫の酒盛り〕 / 他

第三章 じゃれ猫 猫だって美人が好き
二七、新板風流相生尽卯春 / 二八、当世美女吾妻風景浅草寺の年の市 / 二九、子宝遊〔猫〕 / 他

第四章 はたらき猫 もしも猫の町があったら
三九、しん板猫のあきんどづくし / 四〇、しん板大長家猫のぬけうら / 四一、しん板猫のそばや / 他

第五章 ワル猫 やっぱり猫はおそろしい!?
四八、蒲田又八 / 四九、見立東海道五十三次岡部猫石の由来 / 五〇、五十三駅岡崎 / 他

解説(1)浮世絵に描かれた猫
解説(2)国芳と猫

 

著者について

稲垣進一(いながき しんいち)

浮世絵研究家。1961年、日本大学芸術学部美術学科卒業。グラフィック・デザイナーとして印刷会社・広告代理店勤務の傍ら、幕末明治の浮世絵を収集・研究。馬頭町広重美術館館長(現・那珂川町馬頭広重美術館)、東京工芸大学芸術学部講師などを歴任。現在、国際浮世絵学会常任理事。主な著書に『図説浮世絵入門』(河出書房新社)、『江戸の遊び絵』(東京書籍)、『国芳の狂画』(共著、東京書籍)などがある。

悳俊彦(いさお としひこ)

洋画家・浮世絵研究家。1958年、武蔵野美術学校洋画科卒業。50年以上にわたり「武蔵野」をライフワークに描き続ける。1983年に風土会に入会し、以後毎年、銀座セントラル美術館にて作品を発表している。また画業に併行して浮世絵の収集・研究も手がける。国際浮世絵学会会員。主な著書に『国芳の狂画』(共著、東京書籍)、『もっと知りたい歌川国芳 生涯と作品』(東京美術)などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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稲垣進一/悳俊彦『江戸猫 浮世絵猫づくし』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:かず様】

    ふらりと立ち寄った本屋さんで出会いました。
    浮世絵に描かれた猫の画集。
    ほとんどが、猫好きの歌川国芳とその一門の作品ですが、春信や広重も収められています。
    東海道五十三次の宿場名をもじった猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんびき)では、お江戸日本橋から京まで様々な猫たちが描かれています。
    ほとんどの猫の尾が短い。

    うちの子みたいなタイプもいるかなあとたどっていくと、尻尾の長い三毛が手ぬぐい被って踊っていました。
    尻尾が裂けている・・・猫又です。
    長寿猫と思うことにしよう。

    美女に抱かれた猫、擬人化された猫、猫で書かれた文字、19匹もの猫が集まって1ニャンになった寄せ絵と、よくもこれだけ集まったものだと感心しました。
    浄瑠璃のお師匠さん猫が三味線を弾いているのは、他の楽器にしてほしかったけれど、まあ、仕方がないか・・・

    解説も印刷も丁寧で、充実した1冊と思いました。

    (2011/11/24)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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