映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

 

お婆ちゃんに、映画製作を依頼される。

飯田監督は面食らった。
見知らぬお婆ちゃんに突然、こう切り出されたのだ。

『動物たちの命の大切さを伝える映画を作ってほしいの。お金は出します。』

かなり高齢なお婆ちゃんである。
何を考えて映画制作なのか、どこまで本気なのか。
そもそも、まったくの個人でいきなりドキュメンタリー映画を製作を依頼してくるなんて話は聞いたことが無い。
飯田監督が最初、半信半疑だったのは当然である。

「僕でいいんですか?」
「あたし、人を見る目はけっこう確かなのよ」

でも、急に動物の映画といわれても。
いったい何を撮れというんだ?

「何も注文はないんですよ。ただ、あたしが生きているうちに見せてくれれば」

さらに、なぜそんなに猫のことを、と尋ねると、お婆さんはぼそりと答えた。

「人も好きですけれど、人間よりマシみたい。動物のほうが」

「犬と猫と人間と」の映画製作は、こうして始まった。

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

・・・

とまあ、以上は、知る人ぞ知る、あまりに有名な話である。

結果はご覧のとおり。
猫お婆ちゃん・稲葉恵子さんの、人を見る目は本当に確かだった。
飯田監督は、すばらしい映画を作ってくれた。

当初、飯田監督は、動物たちのことは何も知らなかった。
が、取材を続けるにつけ、飯田監督の中に、やるせない思いがどんどん広がっていく。
今、日本は空前のペットブームといわれ、犬猫の数はすでに人間の子供の数を上回っている。
ちまたにはペットグッズが溢れ、犬たちはチャラチャラと着飾って、大切に愛されているように見える。

が、その裏では。

金儲け最優先の劣悪ペットショップ。
後を絶たない不法投棄。
不妊手術せず、生まれてきた子猫を毎回保健所に持ち込む人。
処分される犬猫の数は、行政(保健所)が行っているものだけで、1日あたり1000匹近くもいる。
こっそり捨てられる犬猫の数となると、計り知れない。

どうしてこうなるのか?
なんとかならないのか?

その一方で。

個人の力の限界を嘆きつつ、それでもなんとかしようと頑張っている人たちがいる。
NPO法人を立ち上げて犬たちを救い続ける人々。
雨の日も風の日も、毎日毎日何年も、野良猫たちにご飯を運ぶ夫婦。

徳島には、お小遣いを出し合って、捨てられた子犬を共同保育する小学生たちがいる。
山梨には、当初は400頭もいた犬たちを、何年も住み込みで世話し続ける老人がいる。電気もガスも来ていない、山の奥だというのに。

映画は、さらに、いろいろな話題を取り上げ、「命とは何か」にせまる。

全国のテレビを騒がせた、「崖っぷち犬」と、その裏舞台。
猫たちと寄り添って生きるホームレスたち。
動物愛護先進国・イギリスの、アニマルシェルターの恵まれていること。
飯田監督がこの映画を撮ったのは、猫お婆ちゃんに頼まれたからとか、資金を提供されたからではなかったと思う。
きっかけはそうだったかもしれないが、犬猫問題はたちまち、彼自身の問題となってしまったのだと思う。

だから映画の撮影に、予定の3年ではなく、4年もかかってしまった。
猫お婆ちゃんは、完成を待たずに亡くなってしまった。
「あたしの生きているうちに」という約束は守れなかった。

けれども、飯田監督は、最優先すべき約束は何であるか、よく御存じだった。
「動物たちの命の大切さを伝える映画」
その大本命の前では、「あたしの生きているうちに」という願いさえ、消し飛んでしまうほど重要な約束。

そのことを監督は誰よりも理解していたから、拙速に走らなかった。
猫お婆ちゃんも、そんな監督だからこそ、どこまでも信じて任せたのだろう。

映画は淡々とした口調で語られる。
深刻な命題と裏腹に、映像は暖かく、やわらかい。
テーマがテーマなだけに、もっと重苦しい映画化と思ったのが、拍子抜けしてしまうほどだ。

だけど、これほど暖かく柔らかいからこそ、老若男女、誰でも見てもらえるし、また誰にでも安心して強く薦めることができる。
絶叫アジテーションでは、うるさいと耳をふさがれるばかりである。
相手の心に少しでも入りたければ、このように優しく、暖かく、語りかけなければならない。

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

・・・

ある保健所では、犬猫を殺処分する装置は、なんとトラックの中にあった。

生きた犬猫を装置の箱にいれて、トラックに積み込む。
それからごみ処理センターに向かう。
道は街中を通り過ぎていく。
その路上のどこかで装置が作動し、犬猫は息を引き取る。

なぜ街中で、という問いかけに、

「山の中でも、街の中でも、同じことでしょう!」

と保健所の人は答えた。
心なしか怒気を含んだ声だ。
処分しなければならない無念さを無理やり押さえつけた声だ。

その声を聞いて、私は思う。

トラックの中でなんて、あまりに生ぬるい。
すべての犬猫殺処分は一般公開するがよい。
駅前で、ショッピングセンターで、さらに学校の校庭で。
捨てられた犬猫が苦しみながら死んでいく姿を、ガラスの向こうに、全部見せるがよい。
そして、持ち込んだ飼い主は、家族全員での立ち合いが義務だ。
首から「この犬/猫の元飼い主は私です」という札をぶら下げて、犬猫が死ぬまで、横に立っているがよい。

・・・と、もし私が映画を撮ったなら、過激に走りそうで、これじゃとても映画にならない。

 

(2011.11.5.)

*犬と猫と人間と オフィシャルサイト
http://www.inunekoningen.com/

映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

犬たちを救うために日々奮闘する人々

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

監督:飯田基晴

映画/DVD
映画:2009年制作
DVD販売:紀伊國屋書店 本編118分+特典映像46分
制作:映像グループローポジション
登場ニャン物=にゃんだぼ

 

著者について

飯田基晴(いいだ もとはる)

995年、原一男監督の「CINEMA」塾に参加。その後、96年より新宿でボランティアとして野宿の人々と関わる。98年よりビデオ、テレビなどで野宿者の状況を発表。フリーで映画製作をおこなう。監督作品に「あしがらさん」(2002年)、「今日も焙煎日和」(2007年)、「犬と猫と人間と」(2009年)などのドキュメンタリー作品がある。好きな言葉は「漂えど沈まず」。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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映画『犬と猫と人間と Dogs, Cats & Humans』

9.4

犬猫度

9.9/10

面白さ

8.0/10

考えさせられる

9.8/10

猫好きさんへお勧め度

9.9/10

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