風野真知雄『猫見酒』

「大江戸落語百景」。
それぞれ25ページほどの短編を十話集めたもの。「大江戸落語百景」の副題通り、いずれも江戸時代の庶民の生活を面白ろおかしく描いたもので、最後に落ちが付く。
猫が出てくるのは、『第七席 化け猫屋』と、タイトルにもなっている『第九席 猫見酒』の2つ。
『化け猫屋』は、ある猫婆さんの話。化け猫は出てこない、むしろ化け物は人間?
『猫見酒』は、呑ン兵衛な男たちの話。ただ飲むのも無粋だと、風流を気取ろうとした。雪見酒?月見酒?
花見酒はこの間やったばかりだし、雨見酒じゃ陰気だし。そこへどこからともなく現れたかわいらしい猫。
そうだ、猫見酒なんてどうだ?実に風流じゃないか!
この話の落ちは、猫好きさんなら「うん、うん」とうなづきたくなるような結末です。乞うご期待。
どの話も面白くて、お江戸らしい人情味もあって、一気読みしてしまいました。
(2012.3.18.)
『ご長寿うなぎ』
猫は出てきませんが、ちょっと考えされられる短編でしたので、こちらもご紹介。
主人公はうなぎ屋の長八。今年、五十になった。体は健康そのものだし、店は繁盛している。なのに。
突然、うなぎをさばくことができなくなってしまった。
ある朝、さばくためにうなぎをつかんだ瞬間、そのうなぎと目が合い、
――罪のねえ顔をしてやがる。
――おいらは、こんなかわいい生きものを殺すのか。
そう思ったら、手が動かなくなった。
(中略)
――ずっと、こんなひどいことをしてきたのか・・・。
ISBN:9784022646293 page 8-9
かといって、商売を辞めるわけにもいかない。養わなければならない妻子がいる。現代と違って、年金制度や生活保護制度が充実していたわけではない江戸時代。働かなければ生きていけない。
悩んでいたら、天寿を全うしたうなぎだけを調理すれば罪悪感に悩まされることはないのではないかと和尚さんに入れ知恵される。しかしそんなうなぎは希少だから、価格は一匹一両とべらぼうな高値にすればなんとかなるだろう、と。
幸い商売はあたり、店は繁盛。しかし、・・・
という話です。人間の浅ましさがよく表れています。長八はもちろん和尚さんだって決して人徳高らかななんて人物ではありません。しかし・・・おっと、文庫本にしてわずか25ページほどの小品、これでも書きすぎなくらいで、これ以上書いたら作者に怒られてしまいます。すみませんが、結果はどうぞご自分でお読みください。
とかいいつつ、この和尚さんの言葉は引用したい言葉なので書きます。
「知ってしまうと生きにくくなることがある。だが、知らなかったときが、なんと愚かだったかと思う」
page20

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫見酒』
大江戸落語百景
- 著:風野真知雄(かぜの まちお)
- 出版社:朝日文庫
- 発行:2011年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784022646293
- 264ページ
- 登場ニャン物:タマ、ミミまたはクロエ
- 登場動物:
目次(抜粋)
第一席 ご天寿うなぎ
第二席 下げ渡し
第三席 無礼講
第四席 百一文
第五席 無尽灯
第六席 編笠息子
第七席 化け猫屋
第八席 けんか凧
第九席 猫見酒
第十席 苦労寿司
