竹田津実『写真記 野生動物診療所』
副題:『森の獣医さんの動物日記』。
子供向けの本といえば、そうなのですが。
文章より写真の方が多く、すべての漢字に振り仮名が振ってあり、やさしく気取らない文章で、あっという間に読み終わってしまう一冊なのですが。
何回も、目頭がじわっと熱くなりました。
そして読み終えたときには、体中にほかほかと暖かいものが満ちていました。
なんてすばらしい生活でしょう。
なんてすばらしい獣医さんでしょう。
なんてすばらしいご家族でしょう。
北海道東部の、広い畑や大きな防風林に囲まれた中に、森の診療所があります。
竹田津先生の、野生動物たちのための診療所です。
診療所というより、リハビリステーションと呼ぶ方がよいかもしれません。
きっかけは、幼い兄弟に保護されたトビでした。
野生動物は、法律上は無主物であり、勝手に飼育することはできません。それどころか、勝手に治療することもいけないことでした。
けれども、そこは獣医さん。目の前に弱った動物が運び込まれては、治療せずにはいられませんでした。
そして、気が付けば、次々と野生動物が運び込まれるようになっていました。
そしてついに、自然の中に、診療所まで建ててしまいました。
が、野生動物には飼い主はいません。
当然、誰も診療費や入院費を払ってくれません。
だから診療所はいつも貧乏です。
スタッフは、奥様と子供たちです。
それから、動物たちも動物たち同士で助け合います。
全員無給です。
中でも、猫たちが大活躍です。
雄猫の鬼太郎は、タヌキやキツネと仲良く遊ぶことで、リハビリのお手伝いをします。
雌猫のニャーは、タヌキの子供のお母さん役です。
エゾモモンガの子は、てのひらの中から恐る恐る覗いています。
エゾリスの子は、ストローでミルクを飲ませてもらいます。
ユキウサギとタヌキの子は、ミルクを、ひとつのお皿で分け合います。
スズメの子は奥さんの髪の中に隠れ、エゾリスの子は娘さんの服の中にもぐりこみます。
キタキツネは子供たちと野原で遊び、エゾシカも子供たちと野原で追いかけっこします。
そして、幸いなことに、多くの動物たちが退院していきます。
院長やスタッフたちは、いつだって、一日も早い退院を心から望んでいるのです。
この30年で、野生動物たちに対する行政の考え方もかわってきました。
以前は治療さえほとんど犯罪のように言われていたのが、次第に理解されるようになりました。
他の獣医師の間にも、野生動物の治療をはじめる人が増えてきました。
森の獣医さんの診察は町に戻りました。
とはいえ、治療を必要とする野生動物が減ったわけではありません。
むしろ環境はますます悪くなっています。
森の獣医さんの願いは「一頭の患者も来ない時代が来る」ことです。
(2011.12.3.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『写真記 野生動物診療所』
森の獣医さんの動物日記
- 著:竹田津実(たけだづ みのる)
- 出版社:偕成社
- 発行:2004年
- NDC:916(日本文学)ルポルタージュ
- ISBN:4035071803 9784035071808
- 126ページ
- カラー
- 登場ニャン物:鬼太郎、ニャー
- 登場動物:タヌキ、キツネ、モモンガ、オオハクチョウ、サギ、リス、テン、シカ、ノウサギ、ほか多数