沼田まほかる『猫鳴り』
猫三部作。
第一部は、かなりつらい部分がある。
猫サイト歴が長いと、つい、捨てられた子猫がいたら保護するのが当然と思ってしまいがちだが、世間一般の常識はまだそうではないのだろう。むしろこの本の登場人物のような考え方の方が一般なのだろう。だから世の中から捨て猫がなくならないし、そういう猫を拾って飼うなり里親募集する人は今でも少数派なのだろう。・・・インターネットは全国津々浦々に普及しているにもかかわらず、里親募集サイトに投稿する名前の多くが、常連とも言える方達だ。少数の同じ人が、何回も保護しては里親募集を繰り返しているのだ。
その仔猫は、捨てても捨てても戻ってきた。怪我を負いながらも必死に戻ってきた。にもかかわらず、彼女は何回も捨てに行く。前回よりもっと遠くへ。冷たい雨の中に置き去りにして帰る。
その描写がつらい。
手のひらサイズの小さな小さな仔猫を捨てることに、何の疑問も感じていないような彼女の行動がうすら寒い。
ここは猫サイトなので種明かししてしまうが、最終的にはその仔猫は大事に育てられるようになります。ご安心を。が、数十ページにもわたって、怪我をしている仔猫を繰り返し捨てる描写なので、読み続けるのは苦しい。
第二部は、孤独な少年の心のあがきだ。猫はキーワードのように出てくるが、ここではあまり重要な位置を占めない。
第三部がよかった。
退職した一人の男と、年老いた猫。
お互いを唯一無二の相手として寄り添って生きている。が、生き物には寿命というものがある。猫の方に先に来たらしい。
必死に看病する男。はげしく揺れ動く心。猫の視線ひとつひとつに一喜一憂する。その過程がせつない。
お勧めです。
が、愛猫を失った経験のある方にはちょっとつらい心理描写かもしれません。
その心理描写が白眉でもあるのですが。
(2008.2.5.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫鳴り』
- 著:沼田まほかる(ぬまた まほかる)
- 出版社:双葉社
- 発行:2007年8月
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9874575235890
- 205ページ
- 登場ニャン物:モン、ペンギン
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 第一部
- 第二部
- 第三部