田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

 

人と、ねずみと、猫(人型猫)の、長期に渡る闘い。

架空の世界の、パ・ド・マリアーナ暦3332年~の物語。

人々はもう2000年も、ねずみと闘い続けていた。ねずみといっても、東京の銀座の地下を走っているような奴らとはワケがちがう。知恵と魔法で組織化された大軍団なのである。しかもネズミ算式に増えるから、やっつけてもやっつけてもキリがない。雑魚ねずみをやっているようではダメなのである。幹部ねずみを退治し尽くさない限り、闘いは終わらない。

勇者パイ・ヤンは、王の7勇者のひとりに数えられるほどの戦士である。もう何年も、妻子を故郷に残したまま、最前線で戦ってきた。あるとき、パイ・ヤンは手柄をたて、ちょうど戦にも一区切りがついたので、王に願い出て長期休暇をもらった。

これでやっと愛しい妻と幼い息子に会える!と、喜び勇んで帰村したが・・・

故郷の村は、ねずみに壊滅させられていた。妻も息子も行方不明。唯一残っていたのは・・・

猫mixの「とらじ」だった。

田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

かわいい。とにかくかわいい。

猫mixとは、「魔法のねずみ」によって半人型に変身させられた元動物のこと。犬mix、羊mix、珍しいところでは魚mixなんてのもいる。二本脚で立ち、人語を話し、人間に混じって仕事についたりする。

とらじは、息子リオの飼い猫だった。猫mixになっても、息子リオや「魔法のねずみ」のにおいを覚えているという。一方、勇者パイ・ヤンは、何年も妻に会っていないし、成長した息子の姿も知らないし、もちろん「魔法のねずみ」にも会ったことがない。

勇者パイ・ヤンは、とらじを伴って、妻子を探す旅に出た。

・・・・・

と、まあ、典型的なファンタジー物語なのですが。

もうもう、とにかくただもうひたすらに、とらじちゃんがきゃわいいのです。
ふわっふわな毛皮。
大きなお目目。
絶妙な短さの手足。
どこまでも猫っぽい挙動。

とらじは、猫mixになってもやっぱり「猫」なので、一見あまり役に立っているようにはみえません。が、実は、あまりに「猫」なゆえに、意外にも色々と役に立っているのです。

なにしろ相手はねずみですからね。ねずみの天敵といえば、古今東西、やっぱり「猫」ですからね。

とらじは、愛くるしく可愛らしく、的確にねずみの存在を嗅ぎ取ってしまいます。

そして、勇者パイ・ヤン。

連戦練磨の戦士にして超堅物。硬派一直線な男です。なのに・・・

可笑しい。

猫のことを知らなさすぎます。とらじの行動に、いちいちビックリします。
「肉球の手では、手相を見てもらえないのか?なんて不便な!」とか
「え?どうして箱にはいるんだ?」とか
「向こうを向いているのに耳だけこっちを向いている!ちゃんと聞いていたのか?なんて便利なんだ!」とか
「どうしてそこに寝る!?」とか。

田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

猫飼いなら常識的なことに、毎回ボーゼンと驚いてしまうのです。

猫だけでなく、勇者パイ・ヤンは妻の事も、息子の事も、よく知りません。 世間一般のこともよく知りません。

戦うこと以外は、なにひとつ、よく知らない男だったのです。

無知な自分に絶望しながら、勇者パイ・ヤンと猫mixとらじの旅は続きます。 無事妻子を取り返せるでしょうか?

・・・・・

動物達の絵は、極端なデフォルメはされておらず、それなりに写実的なプロポーションを保ちながら、とんでもなく可愛かったり、人間より人格者でカッコよかったりと、実にすばらしいです。写実的な動物達の中にコミカルな猫達も出てきたりと、幅も広く、見ていて飽きません。

そんな中、敵役のねずみたちだけは、かなりデフォルメされています。多少は恐ろしげに、あるいは憎々しげに描かれていたりします。

なのにねずみたちの言葉づかいが
「あいちゅめ!」
「やっちゅけろ!」
等々、「つ」音がどうしても「ちゅ」音となってしまい、まるで幼児語。これでは全然迫力出ないというか、恐ろしくないですね(笑)。

しかも、2000年も戦い続けている敵のわりには、妙に弱っちいし。

なお、同じ齧歯類のハムスターは愛らしく描かれています。近年流行のジャンガリアン(ドワーフ)ハムスターではなく、ゴールデンハムスターというところも、私としてはうれしいところです。

こういうふわっとしたファンタジーは、好みが分かれるでしょうから、老若男女・万人に漏れなくお奨めとはいかないかもしれませんが、猫のマンガが好きな方であれば、きっと楽しめると思います。

(2014.5.5.)

猫mix幻奇譚とらじ

猫mix幻奇譚とらじ

猫mix幻奇譚とらじ

猫mix幻奇譚とらじ

猫mix幻奇譚とらじ

猫mix幻奇譚とらじ

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫mix幻奇譚とらじ』
全11巻(2018年6月現在)

  • 著:田村由美(たむら ゆみ)
  • 出版社:小学館 フラワーコミックス
  • 発行:2005年(第1巻)~
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:9784091314789(第1巻)
  • 登場ニャン物:とらじ、ハーケン、シャルル、タマ、チビ、シロ、銀次、その他
  • 登場動物:ネズミ、ハムスター、馬、オオカミ、その他

 


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田村由美『猫mix幻奇譚とらじ』

7.6

猫度

7.5/10

面白さ

6.0/10

かわいらしさ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

8.0/10

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