やまだ紫『性悪猫』

やまだ紫『性悪猫』

 

写実的な猫達の、哲学者のような生き様。

漫画を読む、というよりは、セリフのついた素描画集を見るような本だと思いました。

猫達がとても写実的です。ひげの一本一本まで丁寧に描かれています。ひげの付け根の毛穴まで描かれています。無理に可愛くはせず、ただどこまでも、そこにいる猫の姿をそのまんま、一瞬にして写し取ったような絵。

そして、言葉はとても哲学的です。猫ならではの哲学性です。

短編集であり、全編に通じるようなストーリーはありません。どの作品も、猫達の日常のヒトコマを切り取ったものです。野良ネコが多いです。

どの猫も一生懸命生きています。現実を受け止め、抗わず流されず、飄々と生きています。そんな猫達だからこそ、含蓄に富むセリフをさらりと言ってのけます。

せけんなど どうでもいいのです
お日様いっこ あれば
page14

あたしはね
子を産むとき
「母親のわたし」も
一緒に産んだよ
page40

やまだ紫『性悪猫』

やまだ紫『性悪猫』

巻末の、139-154ページは「猫ギャラリー」です。漫画ではなく、ただ猫達の絵が並べられています。ほとんどが輪郭だけの、下書きというよりラフ画に近いものですが、2ページ中に一つくらいの割合で、毛もしっかり書き込まれた絵が混ざっています。「あとがき」で、中野晴行氏(編集者・マンガ研究者)は、この本を「マンガで描かれた詩」と題しています。そしてこう書いています。

たしかに、本書『性悪猫』や『しんきらり』はデジタル化されていて、電子書籍として読むことができる。が、やまださんの作品は「本」の形で手元に置いておきたい、そういう性格のマンガなのだ。自分の本棚の中にいつもあって、何かのときに開きたくなる、そんなマンガなのだ。
page155

私もまったく同感です。やまだ氏のタッチは、思わず触りたくなうような線なんです。触って紙なら暖かさも伝わってきます。でも液晶画面じゃあ・・・

猫と美術が好きな方にお勧めな一冊です。ぜひ、紙の本でお求めください。

やまだ紫『性悪猫』

やまだ紫『性悪猫』

 

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『性悪猫』

  • 著:やまだ紫(やまだ むらさき)
  • 出版社:小学館
  • 発行:2009年
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:9784778031299
  • 158ページ
  • カラー、モノクロ
  • 登場ニャン物:名もない多数の猫達
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

性悪猫
長靴 はかない ねこ
時間の兵隊
出口
猫ギャラリー

解説/中野晴行
初出一覧

著者について

やまだ紫(やまだ むらさき)

1948年、東京世田谷区に生まれる。1969年「COM」5月号『ひだり手の・・・』でデビュー、以後同誌に精力的に作品を発表。1971年『ああ せけんさま』が「ガロ」2月号に入選、翌年には『風の吹く頃』で「ビッグコミック賞」佳作入選。女流漫画家の先駆けとして高い評価を受けるが、結婚と出産・育児のために休筆。1978年に復帰後は多方面に精力的に作品を発表。独特のタッチと心の深淵を描き出す作風で、詩壇や歌壇、社会学の研究者からも高い評価を受ける。2009年4月26日脳出血で倒れ、5月5日歿。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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やまだ紫『性悪猫』

9.2

猫度

9.9/10

面白さ

8.5/10

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

9.5/10

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