ピリンチ&デーゲン『猫のしくみ』

ピリンチ&デーゲン『猫のしくみ』

 

今泉忠明監修:鈴木仁子訳。

アキフ・ピリンチは『猫たちの聖夜』(1989年)でドイツ・ミステリ大賞を受賞したミステリー作家。

しかし、だからといって決してこの本を、小説家が手慰みに書いた猫物と侮ってはいけない。内容は非常に濃いし、深い知識に裏付けされなければ絶対に書けない本だ。
そもそもドイツにはネコ科動物行動研究所なるものまで存在し、この本にも頻出するパウル・ライハウゼン氏をはじめ、ネコ研究は我が日本より遙かに進んでいるといってよいだろう、そのドイツで認められた本なのだから(ピリンチ自身はトルコ人)。

内容は、全部で九章。それぞれ、ネコの魅力、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚とボディコンタクト、“超”能力、性格、知性と学習能力、が説明されている。

この本の特色はといえば、とにかく、面白いということ。

本の構想は、まず、ピリンチとデーゲンという二人の人間が、ネコの生態や解剖学的特徴や行動学を論じるごくまじめで学術的な書物を執筆した、と、そこへ、『猫たちの聖夜』の主人公・ネコのフランシスがやってきて、二人の作品を見るなり「にゃんだ、これは!?」と、各章毎に “いささかのコメンタール” を書き加えてしまった、という体裁になっている。
非常にまじめな論文調の文章のあとに、フランシスが現れて、こちらの緊張をほぐし、ほっと息をつかせてくれる。

それだけでもこのようなタイプの本としては異例なのに、その論文の部分がまた「さすが推理作家」なのだ。

ふつう、こういうタイプの本は、少しでも多くの知識を詰め込もうとするあまり、単なる情報の羅列になりがちなものだ。それはそれで知的好奇心を多いに刺激されて面白いのだが、しかし正直、読んで「引き込まれるように面白い」というものではない。

それが、この本は、なぜか「引き込まれるように面白い」のだ。

ひとつひとつの章の、論点の絞り方、知識の積み重ね方などが、ほとんど各章毎にクライマックスを形成しているといってもいいくらいで、いわゆる学者の書いた本とは全然違う。

多分ピリンチには、自分の知っていることを全部書きだそうなんて欲は、全然なかったのだろう。それどころか、自分の知識の中から、かなりきびしく取捨選択して、どれをどう書けば一番読者を引きつけておけるか、ということを重要視して書いたに違いない。
だから生態学書なのに小説を読むように一気に読んでしまえる本ができたのだろう。

まあ、難をいえば2点だけ私の理解と違っている記述があった。

ひとつはたまに与えてよい食餌の中に「タマネギ」があったこと、それからもうひとつは「マタタビは本物の重症の中毒をひきおこす」という一文。
タマネギなどネギ類はネコの体によくないといわれているし(注)、マタタビはネコをトリップさせはするけれどすぐ覚めるから、重症の中毒という表現が適切かどうかは私には疑問だ。

ところで、もう一人の著者ロルフ・デーケン氏はサイエンス・ライターだそうだ。

(2002.10.20)

(注)猫にネギ類は危険!
ネギ類に含まれるアリルプロピルジスフィドという成分が血液中のヘモグロビンを酸化し、赤血球にグロビンの不溶性変性産物を作ってしまいます。これにより、赤血球が破壊され、溶血性貧血の原因となります。同時に、血液をつくっている骨髄のはたらきも悪化します。これは、血液中のヘモグロビンの分子構造が、ネコとヒトでは異なるために起こる症状です。
ネコがネギ中毒をおこすと、血色素尿(赤~褐色の尿)が出る、元気がなくなる、嘔吐、心臓の鼓動が速くなる、 ふらつく、黄疸、下痢などの症状があらわれます。多くの場合は自然治癒しますが、幼猫・高齢猫や、体質・体調によっては重度の貧血状態に陥ったり、死亡することもありますので、要注意です。

ピリンチ&デーゲン『猫のしくみ』

ピリンチ&デーゲン『猫のしくみ』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫のしくみ』
雄猫フランシスに学ぶ動物行動学

  • 著:アキフ・ピリンチ Akif Princci、ロルフ・デーゲン Rolf Degen
  • 監修:今泉忠明(いまいづみ ただあき)
  • 訳:鈴木仁子(すずき ひとこ)
  • 出版社:早川書房
  • 発行:2000年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4152082631 9784152082633
  • 265ページ
  • 原書:”Das große Felidae-katzenbuch” c1994
  • 登場ニャン物:フランシス
  • 登場動物:

 

目次(抜粋)

  • 雄猫フランシスによるまえがき
    1. この野生、ご家庭ご用達
      ――ネコの魅力ってなに?
    2. なんでもお見通し、ネコの鋭い目
      ――ネコから人間を見たら
    3. 耳がものいうネズミ狩り
      ――ネコの聴覚はどんな世界か
    4. 広い世界はプンプンにおう
      ――ネコの鼻は魂への扉
    5. 四本肢のグルメ
      ――ネコの味覚と摂食本能
    6. なにに触られるか、この世界
      ――ネコの触覚とボディコンタクト
    7. ナンセンス、超センス、たいしたセンス
      ――ネコの”超”能力とは
    8. 十猫、十色
      ――ネコの性格のちがい
    9. ヒゲをはやした利口者
      ――ネコの治世と学習能力
  • 監修者あとがき
  • 参考図書

 

著者について

アキフ・ピリンチ Akif Princci

トルコに生まれ、現在はドイツに在住。雄猫フランシスを主人公にした『猫たちの聖夜』がベスト・ドイツミステリにウ選ばれ、世界的ベストセラーとなった。

ロルフ・デーゲン Rolf Degen

ドイツのサイエンス・ライター。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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ピリンチ&デーゲン『猫のしくみ』

9.1

猫度

9.9/10

面白さ

9.0/10

情報度

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

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