有川浩/村上勉『絵本:旅猫リポート』

ベストセラー小説の絵本版。
猫の寿命は、人間の寿命より、うんと短い。
人間の平均寿命は、世界一長い日本人は84歳(2014年、WHO調査)。
最も短いシオラレオネは46歳。
世界平均は70歳。
一方、猫の平均寿命は、・・・猫に戸籍があるわけでなし野良猫も多いし、正確な統計なんかあるわけないけれど、ペット保険に加入している猫達についてならわかる。
ペット保険の「アニコム」によれば、完全室内飼いの猫の平均寿命は15歳くらい。
外出自由な子は、保険に入れるほど大事にされていても、平均13歳までしか生きられない。
猫の寿命は人間の寿命よりうんと短いから、人間は通常、愛猫の死に会うことになる。
悲しい思いをすることになる。
けれども、それは良いことでもある。
だって、最後までちゃんとお世話できるということなのだから。
もし猫の寿命がゾウガメのように長かったら、猫と暮らせなくなってしまう。
愛猫を残して、自分の方がほぼ確実に早く死んでしまうなんて、心配すぎますからね。
というわけで、猫や動物を扱った小説に、死を扱った作品は珍しくない。
猫物の常道といってもよいくらいだ。
この『旅猫リポート』も、死を扱っているという点では同じ。
猫のナナと、飼い主のサトルが、最後の旅に出る物語である。
しかし、常の本と少々違うのは、視点を逆転させてしまった点だ。
相棒とのふたり旅を淡々と語る猫のナナ。
村上勉氏の独特な絵もあいまって、多くの読者が、心を掴まれてしまったのもうなづける。
ウェブ上には「涙が止まらない」「切ない」と高評価が並ぶ。
でも、このテーマ。単なる「お涙頂戴で泣いてカタルシス」で終わらせて良い問題でもないんですよね。
猫愛護に長年携わっていると、・・・私程度の軽~い携わり方であってさえ・・・こういう事態は決して珍しいことではなく。
猫の立場から見れば、その場合の悲劇度は、本の内容より、はるかに悲しい事も多く。
・・・
これは絵本ですから、あっという間に読めます。(原作は同著者による小説本)
猫好きさんにも、それほどでもない人にも、お勧めです。
現実に起こっている事の方が、この小説の内容よりずっと悲惨で厳しいことを肝に銘じてお読み下さい。
(2014.5.8.)
*原作は、文藝春秋社の「週刊文春」に連載(2011年10/27号~2012年4/19号)。第34回吉川英治文学新人賞、第26回山本周五郎賞候補作、第4回ブクログ大賞(小説部門)、第4回山田風太郎賞最終候補ノミネート作。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『絵本:旅猫リポート』
- 文:有川浩(ありかわ ひろ)
- 絵:村上勉(むらかみ つとむ)
- 出版社:文芸春秋社
- 発行:2014年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784163900209
- 111ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:ナナ、ハチ、チャトラン、モモ
- 登場動物:-