長谷川善和『フタバスズキリュウ発掘物語』
副題:『八〇〇〇万年の時を経て甦った首長竜』。
2006年に「フタバスズキリュウ」がようやく、正式に論文発表され学名がついたと聞いたとき、私は椅子からずり落ちそうになるほど驚いた。
あのフタバスズキリュウが、どうして今頃!?
フタバスズキリュウという名前は、いつ初めて聞いたか覚えていないくらいに昔から知っていた。日本の恐竜ファン古生物ファンで、フタバスズキリュウを知らない人間はただの一人もいないだろう。そのくらい有名な存在だ。
いや、正確にはフタバスズキリュウは「恐竜」ではないのだけれど。恐竜は陸生の動物であり、フタバスズキリュウが属するエラスモサウルス類(クビナガリュウ)は水生だから、生物学的には恐竜には分類されない。
しかし、一般人にはそんなこと関係ない!
フタバスズキリュウは長い間、日本が誇る唯一の「恐竜の仲間」だった。第一発見者の鈴木直さんが当時まだ高校生だったという話もあまりに有名だ。その逸話が、どれほど多くのアマチュア化石ハンター達を励ましたか。その結果、どれほど多くの貴重な発見が追加されたか。
この本を読んで、私ははじめて、どうしてフタバスズキリョウの正式発表が40年もの歳月を必要としたか、納得できた。日本の恐竜学界はなんとも遅れていたのだ。戦後間もない頃ならともかく、今でさえ、恐竜研究だけをして暮らせるような、そんな恵まれた環境とはほど遠い。研究者は自力で、自費をはたいて、コツコツ調査していくほかない。
そんな状況にもかかわらず、40年もの歳月をかけて、フタバスズキリュウを発表された著者の熱意には驚愕する。しかも長谷川善和氏は、最初、発見時にお世話になったウェルズ博士にちなんで、学名をウェルスサウルス・スズキイと命名しようと考えていたそうだ。しかし命名規約によりそれが不能と知り、フタバサウルス・スズキイ (Futabasaurusu suzukii)とされたそうである。なんという謙虚さだろう!自分の名前をやたら付けたがる外国の売名学者達に、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ!
本を読んでいても、長谷川氏の穏やかな中に深い情熱を秘めたすてきなお人柄が偲ばれる。文章は平易でわかりやすく、専門用語は使われていない。これなら子どもや、恐竜のことを全く知らない人でも楽しく読める。この本から恐竜や化石一般への興味を開かれる人も多かろう。
フタバスズキリュウの化石が日本の宝であることは疑問の余地もないが、長谷川氏も同じくらい大切な日本の宝だと、尊敬せずにはいられないのである。
(2009.6.4.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『フタバスズキリュウ発掘物語』
八〇〇〇万年の時を経て甦った首長竜
- 著:長谷川善和(はせがわ よしかず)
- 出版社:(株)科学同人 DOJIN選書
- 発行:年
- NDC:457.87(古代生物)
- ISBN:9784759813142
- 193ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:フタバスズキリュウ
目次(抜粋)
まえがき
地質年代表
プロローグ 一通の手紙
第1章 第一次発掘、始まる
一 クビナガリュウに違いない
二 第一次発掘へ
三 おなかの上に背骨がある?
四 フタバスズキリュウと名づける
第2章 第二次発掘、そして一般公開へ
一 期待が高まる第二次発掘
二 いわき市から新宿へ
第3章 フタバスズキリュウの骨格復原への道
一 フタバスズキリュウのクリーニング作業
二 フタバスズキリュウの骨格を復原する
第4章 フタバスズキリュウはどんな生き物だったか
一 クビナガリュウの体のつくり
二 フタバスズキリュウの生活
第5章 ネッシー、ニュネッシー、シーラカンス
一 ネス湖の怪物「ネッシー」
二 いかに生き延びるか
三 ニュネッシーへの期待
四 生きている化石シーラカンスのもつ意味
第6章 日本でみつかった恐竜たち
一 恐竜の化石はどこにある?
二 ついに出た!日本産の恐竜モシリュウ
三 第二、第三の恐竜発見
エピローグ フタバスズキリュウからフタバサウルス・スズキイへ
参考文献
あとがき