大佛次郎『赤穂浪士』

あの赤穂浪士に、猫が出てくる?
討ち入りで有名な赤穂浪士の話であるから、猫が重要な役をしめる訳ではないが、ちょっとだけ出てくる。その登場の仕方がいかにも猫好きな大佛次郎氏らしい描き方なので、猫本リストにくわえたい。
上杉家の江戸家老に千坂兵部という人物がいる。
大佛氏の「赤穂浪士」では名脇役的な存在で、作品の中でかなり重要な地位を占めるが、実はこの人物、大佛氏が小説にとりあげるまで一般的にはほとんど忘れられていた存在だった。
無論資料も少ない。
それを、大佛氏は猫を使って実に巧みに生き返らせた。
千坂兵部は猫好きで、屋敷には親子猫がいつもウロチョロしている。
この千坂兵部の猫好きは大佛氏の創作だそうだ。
しかしそれがあまりに有名になってしまったので、この本以降の千坂兵部はどこでも必ず猫を抱いて登場するようになってしまった。
それくらい、大佛氏の猫の使い方がうまかった。
下手な性格描写等より、猫と、それに対する態度とを描くだけで、千坂兵部の性格や信念をピシャリと表現してしまった。
大佛氏自身も千坂兵部の猫にはなかなかのこだわりを見せている。
それについてエッセイも書いた。
また、NHKが「赤穂浪士」をテレビ化したとき、もちろん千坂兵部役の俳優には猫を抱かせようとしたが、大佛氏は、その俳優の猫の抱き方に充分な愛情が感じられないし、猫も貧弱すぎると文句を付けて、とうとう猫をひっこめさせた。
猫好きならでのこだわりようで。
大佛氏こそ猫好きの鏡だと感心してしまうエピソードではある。
(2002.8.11)

大佛次郎『赤穂浪士』

大佛次郎『赤穂浪士』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『赤穂浪士』
上巻・下巻
- 著:大佛次郎(おさらぎ じろう)
- 出版社:新潮文庫
- 発行:1938年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4101083045 9784101083049; 4101083053 9784101083056
- 545ページ、550ページ
- 登場ニャン物:(無名)
- 登場動物:-