椎名誠『ネコの亡命』

猫は出てこないけど・・・。
作者自身の後書きに
この本のタイトルである「ネコの亡命」は、本文の中に1箇所そのようなことを書いているのだが、それは行きがかり上の話で、ほんのまったくの二~三行であり、どうしてそれが本全体にタイトルになってしまうのであるか自分でもよくわからない。
と書いている。
で、実際その通り。
これはエッセイ集なのだが、一箇所だけ、モンゴルに撮影に行った著者が、こう書いているだけなのである。
昨日気が付いたのだが、モンゴルではネコの姿をあまり見ない。どうしてなのか聞いたら、ネコというのはまったく役に立たない動物なので誰も可愛がろうとしないし、むしろ見かけるとケトばされるモンゴルで一番カワイソーな動物らしい。
ネコもそれを知っているから、ヒトを見かけると物陰に隠れ、そのへんにころがっている食い物をみつけては細々とこの国の片すみで生きているらしい。
(ここから数行は犬の話なので省略)
なるほどそう考えるとネコほど人間の役に立たない動物はないわけで、ネコもそれを知っているから隣国のロシアや中国にどんどん国外逃亡し、ますます数が少なくなっているそうだ。(後略)
椎名氏には、須磨章氏の名著「猫は犬より働いた」を謹んで贈呈したいが、まあそれはともかくとして、ネコの話といえばまさにこれっきりなのである。
実に人を食ったタイトルなわけで、しかも上記の猫話もまったくヒドイ話で、猫好きには頭に来るような話だが、最初からそうと知って読むのであれば問題ない。
もちろん、私も読む前から、これが猫本ではないことは知っていた(にしても、もうすこしせめて一章分くらいは猫話があるのかと思っていたが)。
猫を頭から忘れて読めば、面白いエッセイ集だ。
楽しそうな人生だなあと思う。
北海道から始まって、日本中をあちこち移動、のみならず、モンゴルで一夏を過ごしたりする。
仕事といえば仕事だけれど、いばりくさったオッサンや口やかましいオバハンにペコペコするだけの商売と違って、物書きというのはやっぱりうらやましい。
自由な空気が気持ちよい。
これを読んで「自分も物書きになるぅ!」と宣言しちゃう男が続出しませんように。
(2005.10.3)

椎名誠『ネコの亡命』

椎名誠『ネコの亡命』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ネコの亡命』
副題、シリーズ名など
- 著:椎名誠(しいな まこと)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:文芸春秋文庫
- 発行:1995年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4167334119
- 249ページ
- モノクロイラスト(カット)
- 登場ニャン物: -
- 登場動物: -