安田満『玄耳と猫と漱石と』

一家離散した彼は、漱石に、飼い猫を託した・・・。
大正元年。
東京朝日新聞社会部長の玄耳(渋川柳次郎)は辞表を出した。
新聞社を辞めるとなると定収がなくなる。
借家は出なければならないし、事実上一家離散である。
妻は離縁し実家にもどり、子供達はそれぞれ世話して貰う話はついた。
犬も近所の犬好きに貰って貰う。
が、猫はどうするか。
猫の行き先がない。
それが決まらない限り玄耳は落ち着かない。
ふと、漱石が玄耳の猫を「よい猫だ」と褒めたのを思い出した。
そうだ、漱石にもらってもらおう。
漱石なら貰ってくれるだろう・・・
と、玄耳は漱石宅を尋ねる。
漱石ファンにはすごく楽しめる短編だと思う。
当時の社会の様子がよく描かれているし、文章の雰囲気も、まるで漱石と同時代に書かれたもののようだ。
平成3年の作とは思えない、タイムスリップを楽しめる。
主人公はあくまで玄耳だし、猫は脇役の一人に過ぎないが、玄耳や漱石の優しさがふわりと匂ってきて、ああきっと漱石はこんな人だったのだろうなと思う。
ただし、漱石ファンでない人には、一緒に収録されている「南洲先生大将服焼片」の方が動きがあって面白いかも知れない。
こちらは猫は全然出てこないのだが。
西郷隆盛の西南の役の最中の出来事を扱った小説である。
これも大変面白かった。
(2004.04.16)

安田満『玄耳と猫と漱石と』裏表紙
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『玄耳と猫と漱石と』
- 著:安田満 (やすだ みつる)
- 出版社:邑書林
- 発行:2004年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4946407650 9784946407659
- 172ページ
- 登場ニャン物:ミイ
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 玄耳と猫と漱石と
- 南洲先生大将服焼片
- あとがき
- 解説 大河内昭爾