リリアン・J・ブラウン『猫はペントハウスに住む』

クィララン、シカゴに戻って殺される!?
本作は、いきなりのクィラランの訃報からはじまる。
シカゴにいた頃の知人から依頼があった。
クィラランが設立したクリンゲンショーエン基金への依頼というべきか。
シカゴにある歴史ある建物、今はボロアパートの〈カサブランカ〉を、悪質な開発業者から守ってほしいというものだ。
クィラランは、今でこそ人口3000人の田舎町に住んでいるが、もとは大都会で生まれ育った人間である。
つい里心を起こした。
ピカックス市全員の反対を押し切って、自らシカゴに偵察に出かけてしまう。
そして、殺されてしまったと!
目撃者によれば、高速道路を通行中、対向車から銃撃され、車がコントロールを失いコンクリート壁に激突、大炎上。
クィラランは、愛猫ココとヤムヤムも連れて行っていたのに。
と、・・・
もちろん、
猫たちは(クィラランも)このシリーズの主人公、本当にいきなり死んでしまうわけではないけれど。
遠路わざわざシカゴまで出かけた以上、このトリオが事件に出遭わないワケがない!
〈カサブランカ〉は想像以上のボロ建物で、想像以上に個性あふれる住民たちが入居していて、そして、読者諸君の想像通り、残酷な犯罪が行われていた・・・
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今回は、ココが三毛猫ホームズ並みの大活躍!
あ、いや、『三毛猫ホームズ』の方があとに書かれた作品群でしたね。
でも、これだけ書けば、赤川次郎ファンの方ならココが何をしたか、推測できるのではないでしょうか。
ホームズが晴美のために頻繁にしていることです。
しかし、それにしても、なんだかなあ?
これは日本人とアメリカ人の違いなのでしょうか。
クィラランは、前々作では、住んでいるキャビンの床下で死体は発見されますが、そのまま住み続けます。
前作では、コブ夫人が死んだ(殺された)直後に、まさにその部屋に引っ越します。
そして、今回も。
クィラランが一時的に引っ越したペントハウス、まさにその部屋で、わずか2か月前に女性が刺殺されたり、男性が飛び降り自殺した部屋で、絨毯や壁に血の跡を発見したあとでも、彼は平然と暮らし続けるばかりか、どんどん好奇心を膨らませます。
その部屋ににこやかに女性を招待したりもします。
そして、女性たちも、「ここで殺されたの?」と、これまたやはり、ふつうにしています。
日本人なら、気味が悪いと思うのではないかと。
・・・少なくとも私なら、血だまりの形跡が絨毯に残っている部屋なんてぜったいイヤだなあ。
30年ローンを組んでやっと購入した中古住宅が、実は事故物件だったとかなら、住み続けるのはわかりますが、一冬の住居として又借りしただけですよ?
クィラランがそこにい続けなければならない理由は何もないし、彼は独り身でお金持ちなんです。
どこでも好きに引っ越せるんです。
彼がそこにとどまったのは、純粋に、「彼自身(およびココ)の好奇心」だけが理由でしょう。
そして、命の危険に遭います・・・・。
イギリスの諺、Curiosity killed the cat(好奇心は猫を殺す)とならなくて、ほんと良かったですね。
結果的には、Curiosity saved the cat and his servant(好奇心が猫とその下僕を救った)となったのでありました。

ブラウン『猫はペントハウスに住む』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫はペントハウスに住む』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ
- 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
- 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:1994年
- NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
- ISBN:9784150772109
- 348ページ
- 原書:”The Cat Who Lived High” c1990
- 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム
- 登場動物: