リリアン・J・ブラウン『猫は郵便配達をする』

ブラウン『猫は郵便配達をする』

 

クィララン、ピカックス市に移住して、莫大な遺産を受け取る。

前作で、ファニーおばさんが死んだ。

「おばさん」と呼んではいたものの、彼女はクィラランの母親の古い友だちにすぎなかった。
クィラランと血縁関係はない。

なのに、彼女は莫大な財産をすべて、なぜかクィラランに遺していた!

誰よりもクィララン自身がびっくりする。
彼は一夜にして、ムース郡一の大金持ちになってしまったのだ。
それまでのクィラランといえば、質素と倹約を絵にしたような、ボロアパート住民にすぎなかったのに。
新聞記者としてはすこぶる優秀だったが、記者の薄給では贅沢とは縁がなかったのだ。

遺産を受け取る条件のひとつに、ピカックス市に移住して、彼女のK屋敷で最低5年間暮らすこと、という項目があった。
だからK屋敷に引っ越して、遺産引継ぎの手続きを始めたが、これがもう!
書類の山!
屋敷を維持管理するだけでも、膨大な出費と人手!
さらに、手紙の洪水!
大資産家クィラランには、あらゆる人々から、あらゆる種類の手紙や書状が届くのだ。

お金って、無ければ困るが、あり過ぎても大変なんだと、つくづくウンザリなクィララン。
そんな飼い主を尻目に、猫たちは郵便物の山に飛び乗ったり、中にもぐったりとおおはしゃぎ。

壮大な屋敷だから、当然ながら、過去にも雇用人たちがいた。
中の一人、デイジー・マルという小娘に、なぜかクィラランは興味を持つ。
というより、ココがクィラランに興味を持つようしむけてくる。

このデイジーは貧民の出身で、気まぐれで、蓮っ葉と評判。
5年前のある日、プイっと出ていったまま、行方が知れぬという。
フロリダに行くという1枚のはがきだけを残して。

しかし、ココはどうやら、犯罪のにおいを嗅ぎつけたらしい?
クィラランに「調べろ」とせまる。

そして、クィラランが行動を起こすや否や、人が一人、二人と死ぬ。
一人は病死(とされた)が、一人は明らかに殺人。
警察は、狂った観光客に撃ち殺されたのだというが、クィラランはもちろん、信じない。
ついには、クィララン自身も命を狙われて!?

ブラウン『猫は郵便配達をする』

ブラウン『猫は郵便配達をする』

シャムネコのココが良い働きをします。
ココがやっているのは、ふつうに猫としての、ありふれたいたずら、意味のない気まぐれ、本能的なじゃれつきなのか?
それとも、人にはまねできぬ、猫ならではの第六感と、凡人をはるかに凌ぐ知能で、殺人事件を見通して、クィラランに教えているのか?

もちろん、クィラランは後者であると確信しています。

「猫には第六感があるのね」
「六!ココには十六はあるね」
「彼が思っていることを伝えられればね!」
「ちゃんと伝えてるんだ。問題は、わたしが彼の考えを読み取れるほど頭がよくないってことなんだ(後略)」
page295

いいですねえ、クィラランのこの、ココに対する絶大な信頼と、猫に対する謙虚さ。
相手の才能を素直に認め、相手が猫でも素直に尊敬する。
だからこそ、ココも最初からクィラランを信用し、ときにはクィラランを命がけで守ったりもするのでしょう。

同じシャム猫でも、ヤムヤムの方は、いつも無邪気に遊んでいるだけのようですが。

この作品では、ストーリーの進め方は、とても丁寧です。ときには(しばしば?)冗長と思えるほどに。
登場人物も多いです。それぞれのキャラも立っています。
この人物配置や、物語の進め方から、著者の、このシリーズを長く続けたいという意欲というか計画というか、そんなものが感じ取れます。
新聞記者ではなくなったクィララン、大富豪になったクィラランが、これからココとヤムヤムとどんな事件を解決していくのか、期待を残す一冊です。

『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ まとめはこちら

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫は郵便配達をする』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ

  • 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
  • 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
  • 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
  • 発行:2002年
  • NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
  • ISBN:4150772215 9784150772215
  • 303ページ
  • 原書:”The Cat Who Played Post Office” c1987
  • 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム
  • 登場動物:-

 

 

著者について

リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun Bettinger

1913年6月20日 – 2011年6月4日。アメリカの推理作家。
10代の頃から約30年、新聞社に勤務。
1962年、飼い猫のシャム猫がマンションの10階から突き落とされて殺された怒りと悲しみを忘れるために、記者業の傍ら執筆した短編「マダム・フロイの罪」(原題:The Sin of Madame Phloi)が『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』6月号に掲載され作家としてデビュー。エラリー・クイーンに「もっと猫の話を書くよう」勧められたことから、ココ・シリーズが生まれたという。
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